本研究は「仮説:CARPが筋サルコメア構造の維持・安定化に関与している」の証明を目的とする。CARPは成人正常骨格筋ではほとんど検出できないが、筋ジストロフィーなど種々の神経筋疾患では発現が著しく上昇する。このことは骨格筋の病的状況下でCARPが特異的な機能を果たす可能性を示唆している。当初CARPは心筋での発現が注目され、心肥大に対し抑制的な働きをすると考えられている。機能として、構造蛋白質myopalladinとCARPの相互作用を間接的に阻害するとサルコメアが崩壊することが報告されている。私は骨格筋においてもCARPは構造蛋白質として機能し、病的な状況においてサルコメア構造が不安定な筋線維に誘導され、その構造を維持・安定化しているのではないかと考えている。また筋分化過程においても発現誘導されることから、サルコメア新規構築時にその構造を安定化することにより、筋の分化成熟に関与する可能性がある。 17年度実験計画:C2C12筋芽細胞株またはマウス初代筋芽細胞株にCARP siRNAを導入し、CARP発現抑制下で筋分化を誘導する。次に(1)筋分化マーカーの発現、(2)筋管細胞の太さ、長さなどの形態を指標に筋管成熟度の評価、(3)サルコメア構造の観察を計画した。 まず、樹立したマウス初代筋芽細胞株を用いて、筋分化過程におけるCARP発現の変化を調べた。mRNA、蛋白質レベルにおいて、CARPは筋芽細胞に構成的に発現しており、分化誘導によりその発現が上昇した。続いて、筋分化過程におけるCARPの役割を調べるために、siRNA導入による発現抑制実験を行った。筋芽細胞に対してアデノウイルスによるsiRNA導入を計画したが、感染効率が低かったため合成オリゴを用いた。CARP発現抑制下で、筋芽細胞を分化誘導し筋管細胞を形成させ、上記(1)(2)について調べた。CARPを発現抑制すると、筋分化マーカーの発現がわずかながら上昇した。また、筋管の成熟度もわずかではあるが上昇した。このことはCARP発現レベルの変化が筋分化に影響することを示唆している。今後は筋芽細胞が筋管細胞を形成する過程において、CARPがどの段階に寄与しているかを調べる。
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