研究概要 |
デング熱などを媒介するヒトスジシマカは元来アジアに生息していたが,1980年代以降北米など世界各地にその分布を広げている.中古タイヤについた卵により侵入したと考えられている北米のヒトスジシマカは生理的な違いや中古タイヤの輸入量などから日本由来と考えられている.しかしその遺伝的裏付けは今のところはっきりしていない.ヒトスジシマカの世界的分布を遺伝的に調べるため,今年度は日本国内の集団のミトコンドリアDNAでの遺伝的分布を調べた.国内の12の地域(水戸・東京・横浜・金沢・静岡・名古屋・鳥取・高松・福岡・大分・延岡・那覇)で採集し,ミトコンドリアDNAのCO1(cytochorome c oxydase subunit 1)の一部421bpとND5(NADH dehydrogenase subunit 5)の一部406bpをPCRで増幅し,配列を決定した.CO1では7のサイトで,ND5では10のサイトで変異が見つかった.これら17の変異によって22のハプロタイプに分類され,これらハプロタイプの分布をみると地域間で違いがみられた.これらハプロタイプの地域間の違いはヒトスジシマカの国内地域間での移動が限定的あることを示している.これまではヒトスジシマカのミトコンドリアの塩基配列では変異が少ないとされていたが,日本の集団内でもある程度の変異を保有していた.多くの変異はその頻度が0.03以下と低かったが,CO1領域において0.29,0.28,0.20と頻度の高い変異がみられた.これらの頻度の高い変異を手がかりとし,今後海外のヒトスジシマカの集団との比較を行っていく.
|