ウエストナイル熱が日本に上陸した場合を想定し、殺虫剤抵抗性機構の解明および抵抗性の分子診断法確立を目的として研究を行った。本年度は、殺虫剤の解毒酵素として働くことが知られるグルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)について研究を進めた。ハマダラカのゲノムプロジェクトで明らかになったGST(Aggst1)、選択的スプライシングによってひとつの遺伝子から4種類の分子種が発現するユニークな酵素であるが、この酵素はDDTの脱塩酸酵素として解毒作用を持っていることが知られている。ウエストナイル熱の媒介蚊であるアカイエカ種群蚊においても同様のスプライシングによって生ずるGSTが存在するのかを確かめるために、ネッタイイエカのcDNAを鋳型としてPCRを行い、配列の解析を行ったところ、Aggst1に構造が非常に類似した遺伝子を持っていることが判明した。この遺伝子の解析を行うために様々なプライマーをデザインし、PCRの後に構造解析を行ったところ、8000塩基対におよぶGSTのゲノム構造の全貌が明らかになった。 GST遺伝子断片を搭載したマイクロアレイを用いて遺伝子発現の解析を行った結果、4種の分子種は発育ステージ間で、異なる発現パターンを示すことが分かった。また、これらのうち1分子種は、幼若ホルモン様殺虫剤ピリプロキシフェン抵抗性チカイエカで僅かに高発現していることが分かったが、この分子種は蛹期に発現のピークを示すことが明らかになった。したがって、この分子種は変態に関わるホルモン等生理活性物質の代謝とともにピリプロキシフェンの抵抗性に関係している可能性が示唆された。 今後は、これらの分子種をそれぞれ単独で発現させ、基質特異性を調べることで抵抗性への関与をさらに追求するとともに抵抗性の分子診断法確立に応用可能か検討する必要があると考察された。
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