研究概要 |
ウエストナイル熱が日本で流行した場合,ウイルス感染から人々の健康を守るためには媒介蚊対策が重要になると考えられる。そして,一般家庭においては,蚊取り線香やマットといったピレスロイド系薬剤の使用が個人的防衛手段の中心を担う。しかしながら,すでに日本においてはピレスロイド剤に抵抗性を発達させた個体群がチカイエカを中心に広く分布していることが報告されており,薬剤抵抗性の問題が不安視される。一方でピレスロイド剤には忌避性があることが古くから知られおり,殺虫活性はなくても忌避性によって吸血を阻止できる可能性があるが,ピレスロイド剤の忌避性が抵抗性個体に対して有効性かどうかはよく分かっていない。本研究では,ナトリウムチャネルの感受性低下によって生じる抵抗性,いわゆるkdr型抵抗性の蚊に対して,ピレスロイド剤が忌避効果を発揮するか否かを調べるために,ピレスロイド剤が練り込まれた樹脂の繊維(オリセット^[〇!R]ネット)を用いた接触忌避試験を行った。実験材料として,ナトリウムチャネル上にL1035F,L1035S,V1037Gの変異をそれぞれもつ3系統のアカイエカ種群蚊成虫を用いた。これらは成虫局所施用法による殺虫試験で6倍から27倍の抵抗性を示す。腰高シャーレ内にマウスを固定し,シャーレ上面をオリセットネットで覆い,成虫を放した飼育ケージ内に静置した。夜間を挟んだ16時間後におけるシャーレ内,外の蚊の生存率および吸血率を計測し,オリセットネットのkdr型抵抗性蚊に対する防御効果を判定した。その結果,オリセットネットはkdr型アカイエカ種群に対して顕著な殺虫効果を示さなかったものの,高い吸血抑止効果を示した。したがって,kdr単独の抵抗性に対しては,ピレスロイドは十分忌避効果があると考察された。
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