ウェルシュ菌の培養はこれまで非常に栄養に富んだ培地のみでの実験が行われてきた。そのため、培養上清からの微量物質の精製に適さず、非常に困難であった。そこで本研究では合成培地を用いた培養を確立し、また、他の細菌も同様の培地で増殖可能な条件を確立した。この条件を用いて、血液と血清を加えた時ならびに他の菌との混合培養行った時の、遺伝子発現パターンの変化をマイクロアレイを用いて検討した。何も加えずに培養した時との比較と血液添加時とヒト血清、ウマ血清添加時の遺伝子発現パターンを比較し、血清添加時に発現の増強される遺伝子、ウマ血清添加時に特異的に発現が増強される遺伝子等、様々な発現パターンを示す遺伝子群を選び出し、Northernハイブリダイゼーションにより確認をおこなった。このようにして明らかとなった、ヒト血清、ウマ血清添加により誘導される遺伝子群の中には、病原性関連遺伝子と考えられる遺伝子も存在しており、この遺伝子が病原性発現に重要な役割を果たしている可能性が示唆された。このシグナル伝達に関わるセンサータンパクを明らかとするため、これまでに作製したウェルシュ菌のゲノム上に存在する28の二成分制御系の変異株を用いて、血液、血清添加時の遺伝子発現パターンを野生株と比較することで、シグナル物質のセンサー候補が明らかとなった。また、他の菌との混合培養によっても、多くの遺伝子が発現に変化を示し、今後これらの遺伝子群の発現調節ネットワークや、病原性との関連を詳しく解析していく予定である。
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