研究概要 |
これまでの研究により、グラム陽性菌のモデル細菌である枯草菌が特異環境下において自発的な溶菌を起こす際に、分岐鎖α-ケト酸脱水素酵素複合体遺伝子の発現が昂進される事が明らかとなった(Shingaki et al., 2003, Microbiology 149,2501-11)。本酵素が関わる反応最終産物は自身の細胞膜を構成する主要脂肪酸であるモノメチル分岐鎖脂肪酸であるが、前採択課題研究(No.15790222)において、これら分岐鎖脂肪酸のある種のものが自身の溶菌を誘導することがわかった。本研究では、種々の病原細菌に対する分岐鎖脂肪酸の作用を調べるとともに、枯草菌におけるその作用機構の解析を進めた。その結果、炭素数15の分岐鎖脂肪酸2種(12-メチルテトラデカン酸,12-MTAならびに13-メチルテトラデカン酸)はグラム陽性細菌に対して広く作用し、溶菌を誘導、あるいは増殖を抑制することがわかった。また、枯草菌における作用機序の解析により、12-MTAは細胞壁に局在し、細胞分裂後の細胞分離に関わる溶菌酵素(LytEならびにLytF)を何らかの機構で活性化するとともに、新規の溶菌酵素(LytD)の発現を誘導する事がわかった。現在引き続き、溶菌を伴わないグラム陽性菌の増殖抑制機構の解析を進めているが、これまでの結果から分岐鎖脂肪酸の作用点として、ポリイソプレニルリピドキャリアー(ウンデカプレニル二リン酸)を介した、細胞壁物質、特にグラム陽性菌特有の構造物であるタイコ酸の合成と膜間輸送プロセスを阻害する可能性について検討を行っている。これらの研究成果については、17年10月に開催された第58回日本細菌学会中国四国支部総会(高知市)においてその報告を行った。また、18年3月に開催される第79回日本細菌学会総会(金沢市)においても発表を行う予定である。
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