研究概要 |
コンピテンス培地を用いた枯草菌168株マイクロカルチャーにおいて顕著な細胞形態変化、細胞壁欠損ならびに溶菌の誘導が観察された。発現タンパク質解析より、この時分岐鎖脂肪酸合成に関わる酵素の発現が昂進している結果が得られ、その後の解析から、本菌の主要脂肪酸である2種の分岐鎖脂肪酸(12-メチルテトラデカン酸,12-MTA、13-メチルテトラデカン酸)が5-10μg/mlの低濃度にて自身の溶菌を誘導するとともに、種々のグラム陽性菌に対して増殖阻害的ならびに溶菌誘導的に作用することが分かった。枯草菌の溶菌誘導に関して、12-MTAは溶菌酵素の活性化、ならびに新規発現誘導に寄与するように働く可能性が示唆された。この12-MTAによる枯草菌溶菌作用はリポタイコ酸の添加ならびにタイコ酸合成に関わる初期酵素TagOの過剰発現により低下した。また、12-MTAは同濃度にて大腸菌の運動性(swarming)を抑制する観察がなされ、その抑制機構はswarmingに必要なwetting物質(腸内細菌共通抗原,ECA)の産生抑制によるものと考えられた。ある鎖長の分岐鎖脂肪酸はキャリアーリピド依存的に行われるグラム陽性菌の必須細胞壁物質ならびにグラム陰性菌の非必須菌体表層多糖の合成・輸送を阻害する作用を持つと思われた(論文投稿中)。本研究の遂行に当たり、不飽和脂肪酸の一種であるパルミトレイン酸(C16:1)も12-MTAと類似した抗菌作用を示す事がわかった。パルミトレイン酸はヒト皮脂中に含まれる抗菌成分としての報告がなされているが、分岐鎖脂肪酸もヒトの皮脂や母乳に微量含まれると報告されており、哺乳類はこれら脂肪酸を用いた生体防御系を有している可能性が示唆される。低毒性と予想される抗菌性脂肪酸の詳細な作用機序の解明に基づく新規抗菌剤の開発が期待される。
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