ウエルシュ菌の創傷感染によるガス壊疽発症には、本菌の産生するα毒素の血小板凝集作用が極めて重要な役割を果たしている。本毒素は、脂質分解酵素(ホスホリパーゼC(PLC)活性とスフィンゴミエリナーゼ(SMase)活性)であることが知られている。一方、血小板凝集には、脂質ラフトと呼ばれる膜ドメイン及びそこに局在するタンパク質群が関与していることが明らかになってきた。本研究の目的は、本毒素による血小板の脂質分解がどのようなメカニズムで血小板凝集を引き起こすかを脂質ラフトに注目して明らかにすることである。 まず始めに、α毒素による血小板凝集に脂質ラフトが関与しているかどうかを明らかにするため、ラフトを破壊する試薬であるMBCDで前処理した血小板を用いて凝集試験を行った。その結果MBCD前処理によりα毒素による血小板凝集作用は消失した。さらに、α毒素が直接脂質ラフトに作用して脂質を分解しているかどうか不連続ショ糖密度勾配法及びDiacylglycerol kinese法を用いてα毒素、ジアシルグリセロール、セラミドの局在と産生量を調べた。その結果、α毒素が血小板の脂質ラフト領域に結合していること、脂質ラフト領域のセラミドが増加していることを明らかにした。一方、脂質ラフトに親和性のある蛍光試薬(DiI C18)を用いてα毒素による脂質ラフトの構造変化を観察した。その結果、α毒素を血小板に作用させるとラフトの集合体が観察された。 以上の結果は、α毒素は血小板のラフトに直接作用して脂質を分解し、脂質ラフトの構造を変化させ血小板凝集の引き金を引いている可能性を強く示唆するものである。
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