コレラ毒素Bサブユニット(CTB)の粘膜投与後の中枢神経系への影響の詳細な報告はまだされていない事から、脳、鼻腔等の組織切片の免疫染色法、HE染色法等により神経組織の影響を調査し、実用化への基礎的データを求めて以下の実験を行った。 コレラ毒素(CT)、組換えコレラ毒素Bサブユニット(rCTB)をセボフレン麻酔下マウスへ10μg経鼻投与した。マウスは、ヘパリン加生理食塩水と4%パラホルムアルデヒドで還流固定し、脳のパラフィン包埋を作製した。脳切片を作製し抗CTB抗体による免疫染色、HE染色等を行い、神経組織への影響を顕微鏡下で観察した。また、単純ヘルペスウイルス1型感染マウスにCT、rCTBを経鼻投与し、顔面神経麻痺の発症の有無の観察、脳、顔面神経でのウイルスのPCRによる確認、免疫組織学的検討等を行った。 HSVウイルス投与量と経日変化をPCRにより観察した結果、感染後2時間で顔面神経へ到達している事が観察された。また、ウイルス量は規定量の半分で感染可能である事も示された。 ウイルス投与量が明らかとなったため、HSVウイルス感染マウスを作製後、CT、rCTBを経鼻投与し、内在性HSVの挙動をPCRで観察した結果、PBS投与群、rCTB投与群では、ウイルスバンドの検出は見られなかったが、CTではHSVバンドが検出された。組織切片を観察したが、目立った影響は観察されなかった。CTによりHSVバンドが増強された結果から、経鼻投与により内在性HSVウイルスが活性化されて発現されたため、バンドが検出されたと考えられる。他の論文で報告された、CTに類似した大腸菌易熱性毒素LTとインフルエンザワクチンのヒトへの経鼻投与後のベル麻痺の発症は、今回実験で確認した事と同じ現象(LTによるHSVの活性化)が発症したためと思われた。rCTBの粘膜免疫アジュバントとしての安全性が示唆される。
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