ゲノム情報および、これまでに報告されているエフェクターの特徴的な発現機構と構造よりサルモネラIII型分泌機構のエフェクター候補分子をコードすると推測される、以下の遺伝子を同定した。(1)ssaEおよびSTM1554遺伝子の転写産物であるSsaEおよびSTM1554たん白質はこれまでに、いくつかのエフェクター分子において報告された特徴的な構造であるコイルーコイル構造を保持する。(2)srfA、srfB、srfCおよびsrfJ遺伝子、また、srfE、srfKおよびsrfGと推測されるSTM2231、STM2233およびSTM4413遺伝子はIII型分泌機構の特異的転写因子により転写制御される。これらのエフェクター候補分子のC末端側にhemaglutinin(HA)タグが付加された融合たん白質を発現するプラスミドを作製し、サルモネラ野生株およびIII型分泌装置をコードする遺伝子の破壊株に導入した。それらの株を、ヒト上皮細胞株HeLaおよびマウスマクロファージ様細胞株RAW264.7へ感染させ、HAタグに対するモノクローナル抗体を用いた免疫蛍光染色法により、分泌されたHAタグ標識エフェクター分子を共焦点レーザースキャン顕微鏡で検出し、III型分泌機構依存性分泌の有無を判定した。その結果、これらの全ての候補分子において、分泌は認められなかった。そこで、次に、百日咳の毒素であるCyaAたん白質の酵素ドメインを用いた方法により検討した。CyaAは真核細胞のカルモデュリン依存的にcAMPを産生することから、エフェクターとCyaAの融合たん白質が宿主細胞へ移行した場合、宿主細胞内において、エフェクター候補分子依存的にcAMPが産生される。HAタグを利用した方法と同様にして、cAMPの産生量を指標とすることによりエフェクター候補分子とCyaA融合たん白質の分泌を判定したが、全ての候補分子において分泌は認められなかった。
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