ゲノム情報を用いたコンピューター解析および、これまでに報告されているエフェクターの特徴的な発現調節と構造より、サルモネラIII型分泌機構のエフェクター分子をコードすると予想される9つの遺伝子を同定した。これらのエフェクター候補分子のIII型分泌機構依存性の分泌および宿主細胞内移行性について、標識タグが付加した融合エフェクター候補たん白質を抗タグ抗体により検出する方法および百日咳菌の毒素であるCyaAたん白質の酵素ドメインとの融合エフェクターたん白質における宿主細胞内移行依存性の酵素活性を検出する方法により検討したが、いずれの候補エフェクターにおいても分泌および移行性は認められなかった。そこで、これらのエフェクター候補分子の病原性発現における役割について調べることを目的として、これら遺伝子の破壊株を作製し、マウスを用いた感染実験を行った。その結果、ssaE遺伝子の破壊株において著しい病原性の低下が認められたため、ssaE遺伝子にコードされるSsaEの機能解析を行った。ssaE遺伝子はIII型分泌機構の遺伝子と同様の転写パターンを示し、SsaEは酸性等電点を示す推定分子量9.4kDaのたん白質であった。また、構造的な特徴として、たん白質-たん白質相互作用に重要である3つのコイル-コイルドメインを保持しており、ssaE遺伝子の破壊株では、III型分泌機構エフェクターの分泌が認められなかったことから、SsaEはエフェクターの分泌に関わるたん白質と相互作用するシャペロンであると予想した。Pull-down法によりSsaEと相互作用する因子を調べた結果、SsaEはC末端側に存在するコイルーコイルドメインを介して、エフェクターの宿主細胞移行性に関わるトランスロケースであるSseBと特異的に結合することが明らかとなった。さらに、ssaEの破壊株ではSseBの菌体内の発現量および安定性の変化は認められなかったが、分泌、すなわちトランスロケースとしての機能が消失することを見いだした。これまでに、SseBの安定性に関与するシャペロンとして、SseAが同定されている。さらに、近年になりIII型分泌機構のシャペロンは安定性に関わる機能に加え、分泌性に対しても影響を及ぼすことが報告されている。本研究より初めて、トランスロケースの分泌には安定性に関与するシャペロンではなく、他のたん白質が必要であることが明らかとなった。
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