水痘帯状庖疹ウイルス(VZV)の糖タンパクはウイルスの宿主細胞への吸着・侵入と細胞融合に重要である。このうちgH:gLは細胞融合を単独で誘導でき、免疫の標的としても重要であるが、自然感染においてgHではその大きさ(118kDa)にも関わらず、conformational epitopeに対する抗体以外は検出されない。逆にgH:gLに対する遅延型過敏反応は最も早く誘導され、サイトカイン誘導に影響を与えると考えられたため、免疫後の脾臓リンパ球を得て抗原刺激を行ったが、3種の糖タンパクの間にIFN-γ/IL-4誘導能の差は見られなかった。以上よりgH:gLに対する抗体誘導の制限はVZV糖タンパクによる免疫誘導時のサイトカイン環境に対する影響よりもむしろ、gH:gLは抗体認識を免れる立体構造を有しているためと考えられた。 次にgH:gLの免疫によって得られる抗体の作用について検討した。gH:gLでモルモットを免疫して得た血清では低希釈倍率ではある程度の中和能を認めたが、高希釈倍率では、むしろウイルスの感染性を3倍増加させた。実験に用いた、fibroblastはフローサイトメトリーで解析したところ、Fcレセプターを有さず、また、メラノーマ細胞でも同様の所見が得られた。したがって、感染促進はHIVやデングウイルスで認められるようなFcレセプターを解するものとは違う機序によると考えられた。変性したgH:gLにて免疫した場合にはこのような感染促進作用は認められず、免疫血清の中和能のみみとめられた。ワクチン接種ではこのような感染促進抗体は認められなかった。 以上からgH:gLに対する抗体はその立体構造によって性質が異なってくると考えられ、コンポーネントワクチンのデザイン上、重要な示唆をあたえた。
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