研究概要 |
これまで我々はC型肝炎ウイルス(HCV)ゲノム複製が免疫抑制剤シクロスポリン(CsA)により抑制されることを報告してきた。昨年はCsAを利用したHCVゲノム複製機構の解析により、CsAの標的分子の一つであるシクロフィリン(CyP)Bが効率よいHCVゲノム複製に必須であることを明らかとした。本年度はCyP阻害剤を用いた抗HCV効果についてさらに解析をおこなった。さまざまなHCV株におけるCsA感受性を調べたところ遺伝子型1b株では調べたすべてのものにおいてCsA高感受性であったが、遺伝子型2aの1つの株ではCsAに対する感受性が低かった。また我々はさらにさまざまなHCV株を用いた解析を可能とするため、HCV感染患者血清を用いたin vitro感染系を樹立した。初代ヒト肝細胞にヒトパピローマウイルスE6E7およびhTERT遺伝子を導入することにより、不死化した細胞株を単離した。またこれにinterferon regulatory factor-7のドミナントネガティブ変異体を導入しHCV感染に高許容性となった細胞株を樹立した。この細胞株にHCV感染患者由来血清を処理することにより、細胞内でHCVゲノムが検出され、HCV遺伝子型1b,2a,2bだけではなく4aの検出も初めて可能となった。この細胞を用いた解析によって、CsAによってHCV遺伝子型4a株複製、も抑制されることが判明した。またCyPへの結合活性を高め、さらに免疫抑制活性を欠失したCsA誘導体NIM811の抗HCV効果を調べた。その結果、NIM811はCsAに比べてより低用量で高い抗HCV活性を発揮した。さらにインターフェロンと併用することによりその効果は相加的ないし相乗的に上昇し、3週間処理により細胞内のHCVが検出限界以下にまで完全に排除された。このようにCyP阻害剤は新しい抗HCV剤候補として有用であると期待される。
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