内蔵リューシュマニア症は、Leishmania donovaniによって起こる熱帯伝染病で、自然寛解はほとんどなく放置すると死に至る。五価アンチモンによる治療が有効であるが、有効なワクチンはなく、薬剤耐性原虫の増加など、重大な問題となりつつある。 ヒトの病態をよく反映するL.donovani感染マウスモデルを用いた研究の結果、感染初期に、大部分の原虫は脾臓周辺帯(MZ)マクロファージに貪食されるが、樹状細胞(DC)には貪食されない。しかし、DCはIL-12を産生し感染特異的T細胞免疫を誘導する。このメカニズムとして樹状細胞がMZよりT細胞領域へ遊走することが、IL-12産生に必要であることを明らかにした(Ato et al. 2006)。これより、感染初期には、原虫を貪食したマクロファージが、脾臓MZにおいて一部の樹状細胞に抗原および活性刺激を伝達していることが想定されるが、このようなマクロファージーDC相互作用についてはこれまで報告がない。本研究は、L.donovani感染初期における、マクロファージから樹状細胞への抗原情報の伝達機構を分子レベルで明らかにすることを目的とする。 L.donovani感染で、DCが抗原情報を受け取る可能性がある細胞としては、1)脾臓MZにおいて原虫を貪食したマクロファージ、2)血中から脾臓MZへ遊走してきた原虫感染単球、3)原虫貪食後アポトーシスに陥った細胞が考えられる。本年度は、1)の可能性について、マウスマクロファージにL.donovaniをin vitroで感染させた後非感染マウスに移入すると、脾臓DCからIL-12産生が起こることを明らかにした。また、3)のアポトーシスの関与は証明できなかった。現在、DCからL.donovani特異的IL-12産生を誘導するこの抗原の輸送がいかなる責任分子によって媒介されるかを解析中である。
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