本年度は第一に、チーム医療の現状把握と評価をするために、3医療施設の各1病棟を調査対象とし、チーム医療に関する参与観察とヒヤリング、面接調査を行った。結果はフィールドノートや逐語録に文書化し、その文書からチーム医療の認識と実践に関する四要素(職種構成志向、専門性志向、協働志向、患者志向)に関する記述を取り出し、医療現場におけるチーム医療の現状を把握・検討した。その結果、チーム医療が目指す共通目的が設定されていないため、どのような職種がチーム医療の構成員として必要か(職種構成志向)、各専門職がどのような専門性を発揮すべきか(専門性志向)、誰と何を協働すべきか(協働志向、患者志向)が不明瞭となっていた。チーム医療を実現させるためには、第一に患者の意向を取り入れた共通目的を設定し、専門職にかかわらずその目的に添った職種の人々によってチームを結成することから始めるべきと思われた。 第二に、医師-看護師が協働で行う注射業務において、どのような状況がエラー防止のためのコミュニケーション(確認行動)を妨げるかについて質問紙を用いて調査した。対象者は看護学生、入職後半年の看護師、経験が1年以上ある看護師の計230名とした。その結果、先輩看護師が確認行動をしなかったり推奨しなかった場合には、個人の看護師も確認行動をしない傾向があった。また、新人看護師であるほど、点滴ラインが入れ替えになる場合に、確認せずに点滴を開始する傾向が見られた。このように経験の浅い看護師はもちろん、経験の長い看護師でさえ先輩の行動や処置内容などの周囲の状況が確認行動に影響を与えていた。コミュニケーションエラーを防ぐには周囲の状況を変える必要があり、指示変更理由がチーム内で瞬時に共有するための手段を講じることはもちろん、変更理由を尋ねやすい環境作りをチーム内で検討することが重要と思われた。
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