本年度は以下の2つの研究結果を分析し、論文作成を行った。 1.医療従事者の業務内容及びエラー発生に関する研究 看護師を対象に時間切迫に影響する労働環境要因を明らかにし、エラー防止のための時間切迫改善に向けた対策を検討した。4病院の22病棟に勤務する看護師540人を調査対象とし、調査票を10日間配布、413人(有効回答者76.5%)の2698人日分のデータを分析した。その結果、時間切迫に関連した看護業務は、医療行為と看護処置量と、ナースコール対応数であった。また、勤務前の疲労感が高い場合に時間切迫が高かった。看護師の時間切迫を減少させエラーを防止するには、医療行為に伴う看護処置量の検討、ナースコール減少への対策、慢性疲労に対する対策であり、具体策として、マンパワーの確保、看護師による業務裁量の拡大、負担軽減のための交替勤務体制が考えられた。 2.医療事故被害者から見た医療従事者とのコミュニケーションの実態とあり方に関する研究 薬害HIV感染被害者遺族を対象に質問紙調査を行い、HIV感染の説明状況、及び問題点について検討した。分析対象は、質問紙を配布した392家庭のうち、回答のあった225家庭(有効回収率57.4%)、314名である。その結果、薬害HIV感染を患者に伝えたのは、主治医32.8%、家族8.3%であり、患者に未告知は26.4%であった。54.5%の家族は、医師がHIV感染を知らせた時期が遅すぎたと評価しており、主治医が患者への感染告知を躊躇していた状況や、患者・家族に医原病の発生に対する謝罪がないことを問題だと感じていた。また、薬害HIV感染の発生・拡大に対し主治医は重大な責任があると感じたのは、家族が告知時期を遅いと評価した場合、主治医が患者に告知しなかった場合、主治医から申し訳ないという気持ちが伝わらなかった場合であった。
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