本研究では、臨床現場で日常的に生じている倫理問題に遭遇した医療スタッフをサポートする「臨床倫理コンサルテーション・システム」の構築を目指すに際し、特にALS患者の「呼吸器」をめぐる倫理問題に定位した。とりわけALS患者にとっては、呼吸不全に至るプロセスの中で「人工呼吸器を付けるか否か」に関する情報提供がいかに医療サイドからしっかり行われるかということが、患者自らの「自己決定」を支える上での重要な倫理的ポイントとなる。そこで、本研究では、患者の自己決定を支える事前指示書作成のための明確な体制作りを具体的に構築することが不可欠であるとの観点から、以下のことを目的とした。(1)既存の代表的な事前指示書の比較検討を行い、「書くことだけ」を目的としない、患者の自己決定の過程を支える事前指示書フォーマットの検討、(2)フォーマット研究にあたっては、倫理学的な理論的アプローチのみによる抽象的なレベルに留まるのではなく、ALS医療の現場に根差し、実践的なcase-based approachによる明確化を行う。(3)事前指示書を運用する医療スタッフに対するサポート体制のあり方、特に臨床倫理コーディネータの役割の明確化。平成17年度は、(1)および(2)に関しては、NHO宮崎東病院神経難病病棟の協力のもと、具体的なフォーマット検討とパイロットスタディを行い(倫理審査は宮崎東病院倫理委員会にて認可済)、(3)についても東病院内に常設型倫理コンサルテーションルームを平成17年5月より開設し、平18年3月現在で、およそ70件の倫理相談を受ける中で、システム構築の諸課題を具体的に把握してきた。また2月には、倫理相談システム構築に関して、国際的にも先進的な試みを行っている英国のUK Clinical Ethics Networkについて現地調査を行い、研究年度2年目に向けて、その視察調査の研究成果を現在執筆中である。
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