COX-1/COX-2選択的阻害薬の慢性胃潰瘍治癒に対する影響およびCOX-1/COX-2遺伝子欠損マウスにおける慢性胃潰瘍の治癒反応について検討し、以下の知見を得た。 非選択的COX阻害薬の投与は胃潰瘍の治癒を有意に遅延させた。慢性胃潰瘍の治癒はCOX-1選択的阻害薬の投与により何ら影響を受けなかったが、COX-2選択的阻害薬は非選択的阻害薬と同様に治癒を遅延させた。胃潰瘍辺縁部におけるPGE_2産生量は正常粘膜と比較して著明に増大したが、このPGE_2産生の増大はCOX-2選択的阻害薬により有意に抑制されたものの、COX-1選択的阻害薬によっては抑制されなかった。胃潰瘍辺縁部において血管内皮増殖因子(VEGF)の発現は有意に増大した。COX-1選択的阻害薬によりこのVEGF発現増大は何ら影響を受けなかったが、COX-2選択的阻害薬の投与はVEGF発現を著明に抑制した。また胃潰瘍部における新生血管数はCOX-2選択的阻害薬の投与により有意に抑制されたが、COX-1阻害薬は血管数に影響を与えなかった。 COX-1もしくはCOX-2遺伝子欠損マウスにおいて焼灼胃潰瘍の発生は野生型マウスと同等であった。COX-1遺伝子欠損マウスにおける胃潰瘍の自然治癒は野生型マウスと同様であったが、COX-2遺伝子欠損マウスの胃潰瘍治癒は野生型マウスと比較して著しく遅延していた。 以上、慢性胃潰瘍の治癒過程においてはCOX-2由来のPG類が重要な役割を果たしていることが判明した。COX-2由来のPGは増殖因子発現や血管新生を調節することで治癒に貢献するものと考えられる。
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