実績1:尿中有機リン系化合物代謝産物の簡便かつ高感度な測定法の開発および応用 我々は有機リン系化合物暴露評価のバイオマーカーとして注目されている有機リン系化合物の尿中代謝産物、ジアルキルリン酸(DAP)の迅速、簡便かつ高感度な測定法の確立を目指し、各種検討を行った。ペンタフルオロベンジルブロマイドを用いたDAP誘導体化反応では、DMTPからDMP、DETPからDEPへの変換が容易に起こる。我々は亜硫酸ナトリウムを尿に添加することでこれらの現象を抑制し、誘導体化反応時間を大幅に短縮することに成功した。サンプル濃縮時における液性は炭酸カリウムを用いてpH6に調整した場合が最も高い回収率であることを明らかにした。検出限界は5mlの尿を使用した場合、DAP 0.1-0.3μg/Lであり、これまでに報告されている測定法よりも優れた感度を達成することができた。一般生活者集団(n=23)の尿中DAPの幾何平均値はDMP16.6μg/L、DEP 1.0μg/L、DMTP 1.3μg/L、DETP 1.0μg/Lであった。これらの結果より、今回我々が確立した測定系は、迅速かつ高感度で再現性よく尿中DAPを測定でき、一般環境中における有機リン系化合物のヒトへの暴露評価に十分に適用できる、優れた測定法であることが示唆された。今後、合成ピレスロイドの尿中代謝産物である3-phenoxybenzoic acid (3PBA)の尿中排泄量も合わせてモニタリングし、一般生活環境中での有機リン系化合物および合成ピレスロイドの曝露評価を進める予定である。 実績2:ジクロロボス(DDVP)の生殖毒性評価 雄性ラットに対するDDVPの9週間皮下投与後、精巣病理組織学的観察や血中テストステロン値において有意な変化をもたらさないが、アセチルコリンエステラーゼ活性が著明に阻害されるDDVP投与量における運動精子率は最大で約14%低下した。また、運動精子率は赤血球コリンエステラーゼ活性や尿中DAP濃度に有意に回帰した。すなはち、DDVPは赤血球コリンエステラーゼ活性を著明に低下させる暴露量においては運動精子率の低下をきたすことを明らかにした。
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