研究概要 |
現在、アスベストや黄砂などの大気中浮遊粒子状物質による健康障害が深刻な問題となっている。特にアスベストによる中皮腫や肺がんなどの健康被害は重大な社会問題である。アスベストによる発がんには慢性炎症が重要な役割を果たすと考えられる。したがって大気中浮遊物質による慢性炎症を介した呼吸器疾患、特に発がんのリスク評価法の開発が緊急に必要である。8-ニトログアニンとは、炎症に関連して生成される変異誘発性DNA損傷塩基である。本研究課題では抗8-ニトログアニン抗体を独自に作成し、アスベストあるいは黄砂を気管内投与した実験動物の肺組織におけるDNA損傷について検討した。アスベスト(クリソタイル)を気管内投与したラットでは、投与3ヶ月後から気道上皮における8-ニトログアニン生成が明瞭に認められ、1年後にはさらに増加した。酸化的DNA損傷塩基である8-oxodGの生成およびiNOSの発現も気道上皮で認められた。また黄砂を気管内投与したマウスでも気道上皮で8-ニトログアニンが生成される傾向を認めた。また炎症関連発がんに関して、以下のような成果を得た。胆管癌を起こすタイ肝吸虫に感染した動物の肝内胆管上皮で8-ニトログアニンが生成され、抗寄生虫薬により抑制された(Int.J.Cancer in press)。タイの肝内胆管癌患者を対象とする分子疫学的研究では、8-ニトログアニン生成が癌の浸潤と相関するという注目すべき知見を得た(World J.Gastroenterol.2005)。慢性C型肝炎患者の肝細胞(J.Hepatol.2005)および口腔前癌状態の患者の口腔粘膜(Cancer Sci.2005,Nitric Oxde,2006)でも8-ニトログアニンが生成された。本課題では、炎症関連発がんではがん好発部位に8-ニトログアニンが生成されるという共通の機構を解明した。したがって8-ニトログアニンは、大気中浮遊物質による呼吸器発がんリスクを早期に評価できる新規バイオマーカーとなることが期待される。
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