研究課題
東洋人ではSNPによる不活性型ALDH2保有者が多い。本研究では10-11週令のマウス、各遺伝子群に(1)20%エタノール5g/Kgを腹腔・経口単回投与(2)給水ボトルにエタノールを0-20%混入し5週投与を行った。《主な結果》(1)投与後のALT値はKO群でもっとも変動が少なかった。5週投与群のwild, hetero群ではエタノール投与によってALT値の上昇がみられず、 KO群では有意に低下した。 KO 群で肝細胞壊死像が少なかった。アポトーシス細胞はほとんど検出されなかったが、KO群で数個みられた。類洞の単核球数と脂肪変性は投与によって増加したが遺伝子群別で有意差はなかった。ALT値と相関がみられ、 KO群で最も相関が低かった。 TNFαの発現量がwild群では増加傾向にあり、KO群では増加していなかった。リン酸化ERK2がKO群のエタノール投与後で減少していた。(2)投与後のALT値はKO群で最も低値となった。KO群では他と同等の摂取カロリーがある場合でも体重減少がみられた。主にKO群マウスで中心静脈周辺の肝細胞腫大がみられた。TNFαの発現量がKO群では低下傾向を示した。リン酸化ERK2がエタノール投与後減少していた。ALT値、TNFα、 リン酸化ERK 2レベルに有意な相関が見られた。(3)CYP2E1(エタノールによる誘導が知られており酸化ストレスの原因となる)の発現部位、量を免疫組織染色で検討した。肝、腎ではWTマウスと比較しKOマウスのコントロール群で発現が強くエタノール投与によってさらに増強された。(4)MDAはKO群で比較的低値、GSHはWTマウスで比較的低値となり、酸化ストレスがKO群で緩和されることが示唆された。(5)肝臓のDNAアダクト(N(2)-ethylidene-dG)がWT<hetero<KOの順で増加していた。《考察》これらの結果より飲酒習慣のある変異型ALDH2遺伝子保持者ではALTが低下する可能性が示唆された。ERKシグナリングを介するTNFαの発現の抑制がALT低下の機序として考えられた。肝組織や体重減少などの所見から、ALTが低下しても全身状態は良好でない可能性がある。CYP2E1は変異型ALDH2遺伝子保持者で強発現している可能性が示唆された。飲酒によってさらに発現が増強することが考えられるため、酸化ストレスによる健康障害のリスクが野生型ALDH2遺伝子保持者よりも高い可能性がある。
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Carcinogenesis (Epub ahead of print)