アオコ毒マイクロシスチンLR(MCLR)の肝臓特異的毒性の発現機序を解明することを目的に研究を行った。ヒト肝細胞特異的に発現し、有機陰イオン類の細胞内取り込みに機能するOATP1B1またはOATP1B3を強制的に発現させたHEK293細胞にMCLRを添加するとELISA法によりその細胞内蓄積が検出され、MTT法により3日間の培養後に細胞死が認められた。このMCLRの毒性発現濃度は、これまでの培養細胞を用いた報告より1000倍以上低いものであった。一方、対照の空ベクターを導入したHEK293-Control細胞では、MCLRの細胞内蓄積は検出されず、またその細胞毒性も認められなかった。これらの結果はOATP1B1およびOATP1B3がMCLRを選択的に細胞内に輸送し、その細胞毒性を引き起こすことを示している。また、セリン/スレオニンプロテインホスファターゼPP1およびPP2AがMCLRの標的分子として知られているために、その酵素活性を測定した結果、MCLRより酵素活性が有意に抑制された。さらに、リン酸化部位特異的抗体を用いたイムノブロットにより、MAPKであるp38およびERK1/2がリン酸化し、活性化しており、p38阻害剤のSB203580およびERK1/2のシグナルを上流で阻害するU0126によりMCLRの細胞毒性は有意に抑制された。 また、平成17年7月から9月にかけて70日間、海外共同研究者のDietrich Keppler博士の研究室(ドイツ癌研究センター)において、OATP1B1またはOATP1B3を発現するHEK293細胞またはMDCKII細胞を用いて^3H-ジヒドロマイクロシスチンLRの輸送実験を共同研究として実施した。その結果、ある一定条件においてOATP1B3がOATP1B1の約5倍ジヒドロマイクロシスチンLRの輸送量が多いことが分かった。
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