癌は様々な遺伝的もしくは環境的要因によって、遺伝子の変異が蓄積して起こると考えられているが、近年ではDNA塩基配列の変異を伴わずに、後成的にDNAが修飾されて起こるエピジェネティックな遺伝子発現の変化が、発癌の普遍的な機構として注目されつつある。サイクリン依存性キナーゼ(cdk)を阻害することで細胞周期進行を抑制するp16は様々な癌で広範に失活しているが、その原因の多くはDNAプロモーター領域のメチル化による遺伝子発現消失である。このDNAメチル化による遺伝子発現消失を回復できる薬剤や食品成分を発見し、その作用機構を解明できれば、画期的な分子標的癌予防法の確立に繋がる可能性が考えられる。本研究は、メチル化によって失活しているp16遺伝子発現を回復、もしくはそれを助長する薬剤を、特に化学合成物質と比較して副作用が少ないといわれる天然の食品成分から探索し、その作用機構を明らかにし、安全で効果的な癌予防法の確立を目指すものである。本年度はp16遺伝子がメチル化により抑制されているヒト大腸癌細胞SW480細胞株について、5-AZA-dCが実際にp16遺伝子の発現を回復させることを、ウェスタンブロットにより確認した。さらに、p16遺伝子プロモーターのメチル化、脱メチル化状態について、いくつかの細胞系列でメチル化特異的PCRを行ったところ、ヒト大腸癌由来SW480、HT29細胞などでメチル化特異的な増幅がみとめられた。またこのうちのSW480細胞株について、細胞増殖抑制、細胞毒性を指標に食品成分・薬剤の探索を開始した。現在までに、増殖抑制効果のみられた13種類の食品成分について定量的RT-PCRによって検討したが、p16遺伝子の発現回復を起こす食品成分は見つかっておらず、今後さらに探索を続けていく。
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