乳がんの発生要因とその予防法を解明するために、症例対照研究の疫学的手法を用いて、その発生にかかわる環境要因ならびに遺伝的要因について乳がんの性質も含め多面的な検討を行っている。 乳がんの症例対照研究は、平成14-17年度にかけて長野県内4病院で診断された初発乳がん患者を症例、また年齢、居住地区をマッチさせた人間ドック受診予定者を対照として、食物摂取頻度調査票を含む生活習慣に関するアンケート調査と血液検体の収集を行った。平成17年10月に有効症例406例(406ペア)に到達し、症例対照の収集を終了した。その後、対象者の末梢血よりDNA抽出を開始し、平成18年度は主にエストロゲンの合成・代謝に関連する遺伝子、環境化学物質の代謝に関連する遺伝子、ホルモン受容体遺伝子などを中心とする40遺伝子60多型について解析した。 これまでに得られたデータのうち、欧米人とは摂取量が大きく異なり、乳がんとの関連が疑われているイソフラボンに着目して解析を行った。まず、食物摂取頻度調査票から推定したエネルギー調整ゲニステイン摂取量との関連を検討したところ、統計学的に有意な負の関連は観察されなかった。次に、乳がんのエストロゲンまたはプロゲステロン受容体の発現の有無を考慮した解析を行った。エストロゲン受容体とプロゲステロン受容体の両者が陽性または陰性の乳がんとゲニステイン摂取量との間に統計学的に有意な関連は観察されなかったが、得られたオッズ比は受容体陰性の乳がんで低い傾向がみられた。さらにエストロゲン受容体β遺伝子の多型(rs=4986938、rs=1256049)によって乳がんとの関連が異なるかどうか検討したが、いずれも統計学的に有意な交互作用は観察されなかった。今後、更に検討を加えるとともに、その他の要因についても遺伝環境交互作用の検討を行う予定である。
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