本研究は乳癌に罹患した人の因果関係観や心的特性が、退院した後の予後や抑うつ状態等とどのように関わるかを検討することを目的とする。 岐阜市内の総合病院の乳腺外科に入院した乳癌罹患者を対象者とした。まず入院中に質問票にて年齢、身長、体重、喫煙歴他背景要因について調べ、更に対象者それぞれの因果関係観についてインタビューを行った。これは乳癌の危険因子及び一般に広く乳癌の原因になると信じられている要因について、それが自分の疾病の原因と考えられるかどうかを4段階のスケールで答えてもらった。更に既存の尺度であるHealth Locus of Control(HLC)の測定を行った。HLCとは医療や健康一般の分野において、「個人の行動を統制する主体がどこにおかれているか」という患者の信念体系を調べることを目的とした尺度である。その後乳癌摘出術を終えて退院約一ヶ月後に、対象者に自記式質問票を送付して、痛みなど症状の苦痛の度合いを示すSymptom Distress Scale(SDS)、精神医学上の疾患を見つける為に開発されたGeneral Health Questionnaire (GHQ)、及び抑うつ度についての尺度であるCenter for Epidemiological Studies Depression Scale (CES-D)に回答してもらった。 69名の対象者が、上記の調査に応じた。HLCのうち、個人が健康や病気に関してその原因を「偶然」に帰属させる傾向が高まると、GHQの「不安と不眠」(r=0.29)、「社会的機能不全」(r=0.25)、及び「重いうつ」(r=0.42)のスコアが有意に高まるという正の関係がみられた。又、HLCの「偶然」への帰属の傾向とCES-Dのスコアについても有意に正の関係がみられた(r=0.39)。また、「自分が乳癌に罹患したのは運命である」と思う傾向と、「痛み」(r=0.31)、及びGHQの「身体症状」(r=0.33)とに負の関係がみられ、又、「仕事が原因である」と思う傾向の高まりとGHQの各尺度(身体症状:r=0.28、不安と不眠:r=0.50、社会的機能不全:r=0.31、重いうつ:r=0.43)及びCES-D(r=0.37)とに正の関係がみられた。今後はHLCと乳癌の危険因子の知識との関連性について検討を行う予定である。
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