研究概要 |
本研究では、明確な脳卒中を示さず、かつ要支援等になり始めるグレーゾーンの状態に至る者を明らかにすることが、今後の高齢化の進展を考えると急務であると考えた。そこで、E県Y市において2000年4月から65歳時調査として継続してベースライン調査を実施した者の5年後の変化について、動脈硬化、生活体力、高次機能検査を元に検討を行った。またこれと平行して頭部画像所見との関連についても評価を実施した。 本解析においては2000年4月〜3年12月の間に基礎調査を完了した者の5年後調査として、2005年4月〜7年12月の間に収集したデータ(対象483人:男性201人、女性282人、リピート率70.2%)を用いて解析を行った。 その結果、65歳時の頸動脈硬化度(3段階)別に見た生活体力スコアの推移に関して、65歳時に動脈硬化が正常範囲の者に比べ動脈硬化が強い者では、65歳時のスコアは13.4%の低下しか示していなかったが、5年後は25.0%もの低下を示した(p<0.05,T-test)。また70歳時における高次機能に関する評価(5段階)で最上位スコアを呈する者の割合は、動脈硬化度が正常範囲であった者では20.0%であったのに対し、動脈硬化度が上昇した者では11.9%であった(p<0.05,χ2-test)。さらに画像所見では脳卒中罹患のない者においても低輝度面積の増加を示していた。一方で、動脈硬化度が正常の者でも5.8%の者に高次機能低下が認められた。 本研究から、頸動脈の動脈硬化進行に伴い5年後の日常生活体力及び高次機能スコアの低下が認められたことから、まずは中年期・壮年期における動脈硬化進行抑制、動脈硬化の進行した者に対しては、加えて生活体力・高次機能の低下予防を推進することが重要であり、また頸動脈超音波検査は非常に有用であることが判明した。しかし、動脈硬化度が正常でも高次機能低下を示す者がおり、本研究でも用いた「かな拾いテスト」が集団教育等で有効に活用できることが示唆された。
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