ヒ素を含有する飲料水による慢性中毒が世界各地でしばしば問題となっている。無機ヒ素の発癌作用が肺、皮膚などで報告されている。その一方で低濃度のヒ素による抗腫瘍作用が知られている。白血病細胞、神経芽細胞、大腸癌細胞においてアポトーシスを誘導し、癌細胞の増殖を抑えることが明らかとなり、副作用の少ない抗癌剤として注目を集めている。近年、ヒ素の増殖抑制やメチル化とアポトーシス誘導との因果関係について、細胞膜の変化、核および細胞質の濃縮、貪食などの機構が明らかとなってきている。しかし、DNA断片化に関与するDNase IとDNase IIが、ヒ素によるアポトーシス誘導に果たす役割は不明である。そこで本研究では、ヒ素のアポトーシス誘導過程でDNA断片化にどのような機構・機序でDNase IとDNase IIとが関与しているのかを分子レベルおよび細胞レベルで解明することを目的とした。 今年度はDNase I解析のために、迅速・簡便なDNase I精製法について検討した。ヒト、ラット、ブタおよびウサギの膵臓・耳下腺、またCOS-7細胞に導入・発現させて得られた各々の組み換え型DNase IをConA-WGA混合カラムを用いて精製を行ったところ、ワンステップでの精製が可能となった。またDNase Iは細胞骨格形成調節因子G-actinとの結合による活性阻害が知られており、その脊椎動物における結合様式について精査したところ、哺乳類DNase Iでは、G-actin binding siteの結合に寄与するアミノ酸残基114がAlaであることが必須であることが明らかとなった。さらにDNase Iは糖タンパクとして知られているが、脱グリコシル化を受けた各酵素の生化学的諸性状の精査を行ったところ熱不耐性が認められ、糖鎖が熱安定性に関与している可能性が示唆された。
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