高濃度のヒ素を含む飲料水による慢性中毒がアジアを中心とする国々で問題となっている。無機ヒ素の発癌作用が肺、皮膚などで報告されている。その一方で低濃度のヒ素は白血病細胞、神経芽細胞、大腸癌細胞においてアポトーシスを誘導することが知られ、副作用の少ない抗癌剤として注目を集めている。DNA断片化に関与するDeoxyribonuclease I(DNase I)が、ヒ素によるアポトーシス誘導に果たす役割は不明である。そこで本研究では、ヒ素のアポトーシス誘導過程でDNA断片化にどのような機構・機序でDNase Iが関与しているのかを分子レベルおよび細胞レベルで解明することを目的とした。 最終年度にあたり、DNase Iをstableに発現する接着細胞系のHep3Bを用い、ヒ素化合物(亜ヒ酸・ヒ酸、モノメチルアルソン酸、ジメチルアルシン酸)によるアポトーシス誘導を行った。その結果、アポトーシスは亜ヒ酸>ヒ酸>モノメチルアルソン酸>ジメチルアルシン酸の順番で強く誘導されることがTUNEL assayにより明らかになった。またアポトーシス誘導により、DNase I活性はコントロール群と比較して有意差はみられなかった。さらに、ヒ素化合物がDNase Iの生化学的性状に及ぼす影響を調べた。その結果、DNase I活性はモノメチルアルソン酸によってのみ、活性が阻害されることが明らかになった。今後、浮遊細胞系のHL-60を用いたヒ素化合物によるアポトーシスの誘導を行いDNase I活性の変動について検討を行い、モノメチルアルソン酸がDNase Iの生化学的性状に及ぼす影響を調べる予定である。
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