Helicobacter pylori(H.pylori)の発見以来、胃・十二指腸疾患との関係が明らかにされてきた。本邦でも、2000年11月より抗生物質によるH.pylori除菌療法が保険適用となったが、副作用として消化管フローラのバランスの破綻、逆流性食道炎の発症などが挙げられるほか、近年、耐性菌が飛躍的に増加してきている。 消化管の感染症に対する予防・治療法として、病原菌特異的な抗体を用いた経口受動免疫の効果が数多く報告されている。この受動免疫には食品由来の抗体が用いられることが多く、継続的な投与が可能となる。我々は既に、H.pylori ureaseに特異的な鶏卵抗体を感染動物に投与することによって、胃粘膜炎症反応が有意に低下したことを報告した。しかし、鶏卵抗体の効果を保持するためには酸分泌抑制剤を同時投与しなければならないことも示され、胃酸による抗体の機能低下が問題となった。さらにH.pylori urease特異的鶏卵抗体によって、胃粘液ムチンや胃粘膜細胞に対するH.pylori接着が阻害される事がin vitroの試験でも確認されたが、やはり抗体を酸で前処理することによって、接着阻害効果は著しく低下した。 鶏卵抗体の大部分を占めているIgYは哺乳類のIgGクラスにあたるが、哺乳類のIgGとは物理化学的な性質が異なり、酸によって容易に活性を失ってしまうことが報告されている。したがって、胃内の酸性条件で十分な機能を発揮するかどうかは疑問である。これに対して、より耐酸性の高い分泌型IgAを含む免疫乳に注目し、現在、Erasmus大学(オランダ、ロッテルダム)のE.J.Kuipers教授と共同で、経鼻粘膜免疫法を応用したH.pylori特異的な分泌型IgAを含む免疫乳の調製・開発を開始している。
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