Helicobacter pylori(H.pylori)感染では抗生物質による除菌療法が一般的だが、10〜15%の除菌失敗例が存在することが知られている。これに対し、食品由来の病原菌特異的な抗体による予防・治療効果が数多く報告されている。我々は、胃内の酸性条件でも十分な機能を発揮することが期待される免疫乳について、抗H.pylori活性を検討した。免疫乳は、Erasmus大学、E.J.Kuipers教授より提供されたwhy protein concentration(WPC80)を用いた。WPC80は、粘膜免疫を施したウシから得られる母乳のグロブリン分画を濃縮したもので、H.pylori特異的な分泌型IgAを豊富に含んでいる。まず、フローサイトメトリー解析によってin vitroにおけるWPC80のH.pyloriの接着阻害効果を調べた。Immune WPC80処理後のピークはplacebo WPC80に比べてわずかに左へシフトしたものの、顕著な阻害効果は確認されなかった。次に、in vivoにおけるWPC80の接着阻害効果を調べた。本実験では、全てのグループにおいてスナネズミの胃からH.pyloriが検出された。しかし、immune WPC80を投与したグループのH.pyloriは、placebo WPC80やPBSを投与したグループのH.Pyloriに比べて有意に減少しなかった。このように明確な阻害効果は確認されなかったものの、今回の実験で用いたWPC80はH.pyloriに対する高い抗体価を持つことが証明されている。したがって、WPCから精製された純度の高い免疫グロブリンを用いたさらなる解析が必要と考えられる。
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