1、ラットモデルの作成:ヒトの食道・胃接合部で観察される高濃度の一酸化窒素(NO)をラットで再現させるためにラット胃内に塩酸とアルコルビン酸を、食道内に亜硝酸塩を持続的に数時間注入する。このモデルでは食道内に投与された亜硝酸塩は食道・胃接合部に達すると、酸性下でアスコルビン酸と瞬時に反応しNOが発生と考えられる。実際に電極を食道・胃接合部の内腔に置き、NOの濃度を測定したところ、高濃度のNOが食道・胃接合部に限局して発生することを確認し、ヒトでの現象が再現できた。このラットモデルを用いて以下の測定を行った。 2、ラット胃組織内のNOの濃度:内腔から組織中に進入したNOの濃度をNOのトラップ剤であるFe-DETCを全身投与し、トラップされたNO複合体(NO-Fe-DETC)を電子スピン共鳴装置を用いて測定した。その結果、食道・胃接合部の組織中において誘導型NO合成酵素(iNos)から生成されるものに匹敵するレベルの高濃度のNOが検出された。 3、ラット胃組織中のグルタチオン濃度:このラットモデルでの組織中グルタチオン濃度を測定したところ、食道・胃接合部においてグルタチオン濃度の減少を認めた。よって、周囲組織中に拡散したNOが、組織中の重要なantioxidantであるグルタチオンと反応し、グルタチオンが消費されたと考えられた。 4、ラット胃組織中でのDNIC検出:Dinitrosyl iron complex (DNIC)は、NOが[Fe-S]クラスター構造を持つタンパクと相互作用し反応したときに生体内で生成され([4Fe-4S]+NO→[3Fe-4S]+FeNO)、組織障害性との関連が指摘されており、低温電子スピン共鳴法を用いて検出を試みた。その結果、食道・胃接合部において明瞭なDNICのシグナルを認め、組織中に拡散したNOによって周囲組織で障害が惹起される可能性が考えられた。
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