エピジェネティックな遺伝子制御の重要な因子の一つであるDNAメチル化の異常が、発癌に大きく関与することがわかってきた。本研究においては、各種消化器癌由来の培養細胞に対して、脱メチル化剤を投与し、経時的な変化を捉えること、またその影響を検討することによって、エピジェネティックな遺伝子発現制御のメカニズムを明らかにすることを目標とした。 消化器癌由来培養細胞(13種類、食道癌3種、胃癌5種、肝細胞癌3種、大腸癌2種)に対して、脱メチル化剤、5-aza-2'-deoxycytidine(1μM)にて処理を行い、96時間後にRNAを回収した。このRNAをサンプルとして、マイクロアレイ解析を行った。胃癌由来の培養細胞を用いた研究では、BCL2-like 10(BCL2L10)がエピジェネティックに制御され、アポトーシスを介して細胞増殖を抑制することを明らかにした(研究発表、雑誌論文)。肝細胞癌由来の培養細胞を用いた研究では、Caveolin 1(CAV1)とcysteine and glycine-rich protein 1(CSRP1)がやはりエピジェネティックに制御され、臨床検体を用いた検討でも、癌部で異常メチル化を認め、かつ発現が低下していることを明らかにした(研究発表、雑誌論文)。 肝癌由来の培養細胞6種類に対しては、24時間ごとに120時間後までRNAを回収し、マイクロアレイ解析を行った。クラスタリング解析によって、経時的に発現上昇を認める遺伝子群を同定し、機能分類を行い、その特徴を明らかにし、報告した(研究発表、雑誌論文)。 これらの検討から、各種消化器癌におけるエピジェネティックな遺伝子発現制御を解明するための基礎的データを得ることができた。
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