潰瘍性大腸炎は大腸の粘膜上皮を主体とした非特異性炎症性疾患であるが、粘膜病変が連続的に直腸から口側へと進展するという臨床上の特徴を有している。本研究は病変の進展様式が特定の遺伝子の発現勾配によるものではないかと推測し、健常人において大腸各部位の粘膜上皮における遺伝子発現量をDNAマイクロアレイによって比較し、大腸遠位側で有意に発現が増加している遺伝子を抽出することを目的としている。 健常人の腸管粘膜の内視鏡生検材料3点(A.上行結腸、B.脾彎曲部、C.直腸S状結腸接合部)を検体とし、生検粘膜で発現しているmRNAを抽出しcDNAマイクロアレイ行った。その結果、大腸遠位側において発現が増加している26遺伝子を抽出できた。さらに、マウスにおいて大腸遠位側で発現が増加していると既に報告されている7遺伝子を検討に加え、これらの遺伝子について消化管部位別RNA発現量をRT-PCRやノザンブロットにより比較した。その結果、3遺伝子について大腸遠位側での発現増加が確認された。そして、この3遺伝子から1遺伝子を選び、.その遺伝子の発現蛋白に対するペプチド抗体を作成した。なお、この抗体はヒト及びマウス間で相同性の高い領域を認識できるように作成した。目的蛋白を強制発現させた細胞において、本抗体を用いたウエスタンブロットによりその蛋白を認識することができた。そして、マウス腸管をサンプルとしたウエスタンブロットでは、直腸において目的蛋白の発現が確認された。さらに、ある種のヒト癌細胞においてもこの蛋白の発現が認められた。
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