SgIGSFは肺上皮細胞や精子、マスト細胞、神経細胞での発現が報告される接着分子である。私は、マスト細胞と腹腔中皮細胞の相互作用におけるSgIGSFの関与を過去に報告した。本研究では、消化器系癌細胞が腹膜播種する過程に着目し、この過程におけるSgIGSFの関与を調べることが目的である。 日本国民が罹患する率の高い癌として胃癌に注目した。胃癌は腹膜播種を引き起こす消化器癌の一つで、腹膜播種の有無は癌患者の生命予後を左右する要因の一つである。胃癌細胞株9つを培養し、これらにおけるSgIGSFの発現をイムノブロット(以下IB)で調べた。マスト細胞では110kDa相当の分子が接着分子として働くことが知られているためその辺りの分子の発現を調べると、高・中分化型細胞株の一部で発現を認めたが、低・未分化型細胞株では認めなかった。細胞間接着分子Eカドヘリンは、胃癌のびまん性増殖・脱分化を制御する分子の1つとして考えられている。そこで、同じ細胞株群を対象としてEカドヘリン抗体によるIBを行った。同分子の発現は、高分化型細胞株の一部で減弱したが、低・未分化型細胞株では発現の減弱を認めなかった。 次に、これら細胞株の一部を対象としてSgIGSFおよびEカドヘリンに対する二重免疫染色を行った。対象とした細胞株はMKN7(高分化型、IBでSgIGSF発現弱)、MKN28(中分化型、IBでSgIGSF発現強)、TMK1(低分化型、IBでSgIGSF発現なし)、NUGC4(未分化型、IBでSgIGSF発現なし)とした。その結果、SgIGSFの細胞間局在はMKN28で確認された。今回の観察ではMKN7における細胞間局在は確認出来なかった。一方、Eカドヘリンは4つの細胞株全てにおいて、細胞間で局在が確認された。これらの結果より、SgIGSFは胃癌分化度に関与する可能性が示唆された。
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