本研究では、まず初めにhTERTストローマ細胞クローンの樹立を試みた。レトロウイルスBabe-hygro-hTERTを導入後80PDのストローマ細胞(初代ストローマ細胞と同様の形質)から、限界希釈法によりHuman hTERTストローマ(HTS)細胞を9クローン樹立した(HTS-1からHTS-9)。HTSクローンの表面抗原を解析したところ、いずれにおいてもCD73、CD105およびCD166が高発現しており、この発現の程度は初代ストローマ細胞と比較して差を認めなかった。またCD31、CD34およびCD45の発現は検出されなかったことより血球細胞や血管内皮細胞由来のクローン細胞の存在は否定された。次に組織染色法によりHTSクローン形質を検索した。脂肪滴をみるOil Red O染色では全く染色性を認めなかったが、骨芽細胞のマーカーであるALP染色とカルシウム沈殿をみるvon Kossa染色ではすべてのクローンで染色性を認めたことよりHTSクローンは骨芽細胞の形質を持つことが明らかとなった。興味深いことにHTS-4からHTS-9まではalpha-smooth muscle actinの染色性を認めたことより筋線維芽細胞の形質を併せ持つことが明らかとなった。次に、造血に係わるサイトカインや膜性因子の発現をRT-PCRを用いて検討した。その結果SCF、Wnt-5A、Ang1、N-cadherinは全てのクローンにおいてほぼ同等に発現を認めた。一方TPO、FL、IL-6、Ihh、Jagged-1、BMP-2、MMP-2およびMMP-9はクローン間で発現量に差を認めた。またBMPの抑制因子であるNogginや、BMPとWntの抑制因子であるCerberusもクローン間で発現に差を認めた。以上の結果からHTSクローンは造血に関わる成長因子のみならず抑制因子も異なるレベルで発現していることが明らかとなった。最後にHTSクローンを用いたlong term culture(5週間)を施行した。HTSクローン間の造血支持能を直接的に見るため、当初サイトカイン無しの条件で共培養を試みたが、いずれのHTSクローン細胞を用いてもCD34陽性細胞の増幅効果を認めなかったため、SCF 0-10 mg/ml存在下で血球細胞の増幅効果を検討した。その結果、SCF 10 mg/ml存在下において総細胞数は約80倍、CD34陽性細胞数は約12倍増幅することが示された。すなわちHTS細胞のCD34陽性細胞の造血支持能にはSCFが必須であることが明らかとなった。今後、それぞれのクローン間の造血支持能の差異を比較検討する予定である。
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