研究概要 |
一酸化窒素(NO)は生体内でメディエーターとして様々な作用を持っことが知られており,NO供与体であるsodium nitroprusideの投与で,摂食量が増加する報告や,NO合成酵素(NOS)の阻害薬(L-NAME)の投与により,摂食量,体重が減少する報告から,NOは摂食調節に関与していると考えられるが,その機序の詳細は明らかではない。一方,グレリンは,ヒトとラットの胃から発見され,その生理作用としてGHの分泌促進、摂食刺激、胃酸分泌,胃運動の亢進が知られている。グレリンの生理的分泌刺激は空腹や体重減少であり,空腹時に上昇し,食事により低下するという日内変動があるがそのシグナルのメディエーターについては不明な点が多い。本研究では、食事もしくは唾液中に含まれるNO_2^-が胃酸により還元され、胃腔内でNOが大量に発生することに着目し、ラットにNaNO_2を経胃管投与し、胃腔内にNOが大量に発生した状態でのグレリン動態について検討した。 亜硝酸水投与ラットの解析 7週齢の雄性Wistarラットを用い、NaNO_2(0.1mmmol/kg)を経胃管投与した。血漿および胃内のグレリン濃度はRIAで定量した。抗グレリン抗体を用いた免疫組織化学を行い、胃粘膜内グレリン陽性細胞数を検討した。血漿及び胃粘膜中のNO_X濃度はGriess法により測定した。血漿及び胃粘膜中のNO_X濃度、血漿中グレリン濃度は有意に増加した。また、血漿中グレリン濃度と血漿中のNO_X濃度、胃粘膜中のNO_X濃度は有意な相関を示した。胃粘膜中のグレリン濃度、グレリン陽性細胞数はNaNO_2の投与で有意な変化を認めなかった。プロトンポンプ阻害薬であるランソプラゾール(30mg/kg)をNaNO_2の投与16時間前に投与したところ、血漿中グレリン濃度の上昇が抑制された。 ex vivoでの検討 24時間禁食の後に7週齢のWistar系雄性ラットを屠殺し、胃粘膜を取り出し、胃体部を横断的に3mm四方の切片を作製し、培養液中で2時間incubationした後、NOドナーであるsodium nitroprusside (SNP)1μMを投与し、30分後に培養上清を採取し、培養上清中のグレリン濃度を測定したところ、培養上清中のグレリン濃度は有意に増加した。 以上より、胃腔内に一酸化窒素が大量に発生した状態ではグレリンを産生するA-like細胞からのグレリン分泌が刺激されると考えられた。
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