(背景/目的)アルコール性肝障害をはじめとする種々の肝疾患では、細胞内凝集体であるマロリー体が高頻度に観察される。マロリー体は一種のアグリソームと推測されるが、その形成機序、細胞生物学的意義は不明である。今回我々は種々の肝疾患において、酸化ストレスなどが肝細胞における小胞体ストレスを惹起し、小胞体での蛋白質品質管理機構が障害された結果、異常蛋白質が産生過剰となり、マロリー体が形成されるという仮説を立てた。(方法)ヒト肝癌細胞から得られた肝細胞株(Huh7細胞)にグルコースオキシダーゼならびにプロテアソーム阻害剤であるALLNを同時投与し、凝集体形成の有無を検討する。凝集体の形態的特徴を明らかにするため熱ショック蛋白、ガンマ・チュブリン、ユビキチン、サイトケラチンの免疫染色を行う。また、凝集体形成に小胞体ストレスが関与しているかどうかを検討するため、ストレスマーカーであるXBP-1、Bip、PERKの発現をウェスタンブロッティングにて評価する。(結果)グルコースオキシダーゼを培養液中に投与した結果H2O2の持続的発現がみられた。Huh7細胞にグルコースオキシダーゼとALLNを同時投与した結果有意に凝集体形成細胞が増加していた。anti-oxidantであるN-acetyl-cysteineを同時投与すると凝集体形成は抑制された。免疫染色の結果、この凝集体は熱ショック蛋白、ユビキチンと共在していたことからマロリー体や神経変性疾患でみられるアグリソームの特徴を有していた。ウェスタンブロッティングの結果グルコースオキシダーゼ、ALLN投与時、小胞体ストレスマーカーは発現が増加していた。(考察)今回我々は酸化ストレスが小胞体ストレスを惹起し、細胞内凝集体形成に直接関与していることを明らかにした。種々の肝疾患において持続的酸化ストレスがマロリー体形成に関与している可能性がある。
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