グラム陰性菌由来物質であるリポ多糖(LPS)が体循環に入ると重篤な症状が引き起こされるが、消化管、特に大腸は管腔内常在菌由来の多量のLPSに暴露されているにもかかわらず、通常状態では炎症応答はみられない。本研究の目的は、大腸に存在するマクロファージ様細胞が、末梢血中に存在するマクロファージ系細胞とは異なる性質、すなわち「常在菌由来成分LPSに対する低免疫応答性」をどの様にして獲得していくのかを理解することである。予備実験において、一般的には向炎症性と考えられているサイトカイン・ケモカインが、定常状態の大腸粘膜層に分泌されていることを既に見出していたため、本年度は、IL-6、MIF、リンホタクチン、アクチビン、フラクタルカイン等の大腸に恒常的に発現しているサイトカイン・ケモカインを、骨髄より誘導したマクロファージ様細胞に作用させ、その後のLPS刺激に対する応答性を調べた。その結果、IL-6、MIF、リンホタクチン、アクチビン、ないしフラクタルカインで前処理した骨髄由来マクロファージ様細胞で、LPS刺激に対するTNFα産生の低下が認められた。マクロファージのLPS応答抑制作用が最も強かった低濃度フラクタルカインに着目し、その作用機序について詳細な検討を行った結果、フラクタルカイン処理により、LPS受容体であるToll様受容体(TLR)-4とその構成分子MD-2の発現が低下することが明らかとなった。LPS以外のTLRリガンド(CpG、ペプチドグリカン等)に対する応答には、低濃度フラクタルカイン処理は影響を及ぼさなかった。LPSを介したシグナル伝達経路に及ぼす低濃度フラクタルカインの影響についても調べた結果、ERK-1/2のリン酸化の低下とNF-κBサブユニットの変化が認められた。以上の結果により、大腸に恒常的に発現する低濃度フラクタルカインが、マクロファージに作用して常在菌由来成分LPSに対する低応答性をもたらし、「大腸型」へと誘導する微小環境因子の一つである可能性が示唆された。
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