グラム陰性菌由来物質であるリポ多糖(LPS)が体循環に入ると重篤な症状が引き起こされるが、消化管、特に大腸は管腔内常在菌由来の多量のLPSに暴露されているにもかかわらず、通常状態では炎症応答はみられない。本研究の目的は、大腸に存在するマクロファージ様細胞が、末梢血中に存在するマクロファージ系細胞とは異なる性質、すなわち「常在菌由来成分LPSに対する低免疫応答性」をどの様にして獲得していくのかを理解することである。平成17年度において、定常状態の大腸粘膜層に分泌されているIL-6、MIF、リンホタクチン、アクチビン、フラクタルカイン等の、一般的には向炎症性と考えられているサイトカイン・ケモカインを、骨髄より誘導したマクロファージ様細胞に作用させると、その後のLPS刺激に対するTNFα産生が低下することを既に見出した。本年度は、マクロファージのLPS応答抑制作用が最も強かった低濃度フラクタルカインに着目し、その作用機序について詳細な検討を行った。LPSを介したシグナル伝達経路に及ぼす低濃度フラクタルカインの影響について調べた結果、低濃度フラクタルカイン処理により、核内受容体であるPPARγの発現が亢進すること、LPS刺激により核移行したNF-κBがPPARγと結合することにより速やかに核外へ排出されていることを見出した。また、低濃度フラクタルカイン処理により、PPARγの生理的リガンドである15dPGJ_2の発現が亢進すること、15dPGJ_2処理によりマクロファージにPPARγの発現を誘導すると、低濃度フラクタルカイン処理時と同じくLPS応答性が低下した。以上の結果から、大腸に恒常的に発現する低濃度フラクタルカインが、マクロファージに対して常在菌由来成分LPSに対する低応答性をもたらすメカニズムの一つとして、15dPGJ_2の誘導を介したPPARγの発現増強による、LPSに対する反応の収束の促進が示された。
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