研究概要 |
最近、虚血性心疾患(IHD)において骨髄由来の前駆細胞および幹細胞の虚血心筋部位への投与により、心筋細胞への分化を誘導し心機能の改善を促すという報告が動物実験および臨床試験においてなされている。また、前駆細胞の増殖・分化および好中球の産生促進と活性化をもたらすといわれている顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)を、急性心筋梗塞患者に投与することにより、骨髄由来の前駆細胞および幹細胞の動員をもたらし、それらが心筋細胞へ分化することにより心筋再生へ寄与しているのではないかという種々の報告がなされている。しかし、虚血性心疾患患者において、内因性のG-CSFがどのように動員されているか未だ明らかでない。我々は、冠動脈バイパス手術が施行されたIHD患者72例(AMI患者20例、狭心症(AP)52例)を対象とし、心筋間質液を反映すると考えられる心嚢液を用いて、G-CSF、血管内皮増殖因子(VEGF)、顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)をエンザイムイムノアッセイにて測定した。AMI患者では全例において、発症後24時間以内に緊急冠動脈バイパス手術が施行された。心嚢液中におけるG-CSF濃度は、AP患者と比較するとAMI患者において著明な増加を示した(57.4±10.9 vs 4.6±0.3pg/ml,AMI vs AP,p<0.0001)。心嚢液中におけるVEGFおよびGM-CSF濃度は、AMI患者とAP患者において差が見られなかった。また、我々は発症後12時間以内に初回の冠動脈形成術が施行されたAMI患者18例において、冠状静脈洞(CS)および大動脈における血清G-CSF濃度を比較検討した。CSにおけるG-CSF濃度は、大動脈におけるG-CSF濃度に比べ有意な上昇を示した(8.7±0.4 vs 7.1±0.4pg/ml,p<0.05)。AMI患者における血清G-CSF濃度は、AP患者での血清G-CSF濃度に比べ有意な上昇を示した(7.2±0.2 vs 4.8±0.3pg/ml,p<0.05)。AP患者と正常被検者(3.7±0.6pg/ml、n=5)における血清G-CSF濃度は有意な差を認めずも、AMI患者における血清G-CSF濃度は、正常被検者での血清G-CSF濃度に比べ有意な上昇を示した(P<0.05)。G-CSFは、AMIの急性期において心筋組織から合成、分泌され、骨髄由来の前駆細胞および幹細胞の漸増と心筋細胞の再生に重要な役割を演じている可能性が示唆された。
|