ラット右心室から取り出した多細胞心筋標本(トラベクラ)を用いて、局所灌流法を用いた不均一収縮モデルを作成し、以下の実験成果を得た。 1.局所灌流液にButanedione Monoxime (BDM)を添加した不均一収縮の実験系を用い、刺激頻度-張力関係を測定した。健常心筋を用いた場合(n=4)と比較し、不均一収縮の実験系(n=5)では1Hzから2Hzペーシングに刺激頻度を増加させたときの張力増加率が約37%減少した。すなわち不均一収縮状態での刺激頻度依存性の張力増強作用が、不均一収縮が存在する場合には減弱することが示唆された。刺激頻度を3-4Hzに増加した場合、不均一収縮モデルでは後収縮が出現した。後収縮を認めた場合の発生張力は後収縮を伴わないときの発生張力に比べ有意に減少し、不均一収縮に伴う後収縮の存在が発生張力の更なる減少要因になることが示唆された。 2.同様にBDM添加局所灌流液を用いた不均一収縮の実験系において、カルシウム波と伸展刺激との関係を検討した。カルシウム波を2.5Hzペーシング(7.5秒間)で誘発した。最終ペーシング後に10%心筋を伸展する200msの伸展パルスを加えた場合のカルシウム波の伝播速度を検討した。伸展パルスを加えた場合、パルス無しと比較しカルシウム波の伝播速度が約30%増加した(n=6)。伸展パルスを加えたときのカルシウム波伝播速度の増加率は伸展時の発生張力と正の相関関係を示し、カルシウム波の伝播とカルシウム波発生直前の発生張力の密接な関係が示された。クロスブリッジに伴うカルシウムの結合と解離の関与が示唆された。
|