本研究の目的は、低分子量G蛋白質Radの情報伝達系を同定し心臓の成長や肥大における役割・意義を解明することである。 代表者は、まず野生型RadのcDNAからPCR法を用いて105番目のセリンをアスパラギンに置換し、GDPのみと結合能を有する不活性化型(ドミナントネガティブ変異型)Radを作成した。さらにこれらの遺伝子にHemagulutininタグをN末端側に付加し、アデノウイルスをCre-loxシステムを用いて作成した。Radの心筋細胞における細胞内局在を調べるために、ラット新生児培養心筋細胞にこれらのウイルスを感染させ共焦点レーザー顕微鏡でRadの局在を観察した。Radは野生型及び変異型ともに細胞膜に局在し、そのGTP結合能は細胞内局在に影響しないことがわかった。 次に、Radの心筋細胞の表現形に対する効果を検討した。野生型及び変異型Radをラット新生児培養心筋細胞に強発現し、その形態を観察した。細胞面積は変異型Radでは増加傾向にあったが、野生型Radでは変化がなかった。今後、心筋肥大時に見られる細胞骨格の再構築の有無をphalloidin蛍光色素で染色し確認する予定である。さらに、代表者は、Radに対するsiRNAを作成済みであり、現在このsiRNAによるRad遺伝子のノックダウン効率を確認中である。 Radの心肥大における関与を検討するため、肥大刺激によるRad蛋白発現の変化を調べた。ラット新生児培養心筋細胞を牛血清で刺激したところRadの発現は24時間をピークに増加した。今後、いかなる肥大関連の情報伝達系に関与しているか、またRadを強発現することで肥大を抑制しうるか否かを検討する。 Radの心臓におけるin vivoでの役割を検討するため、野生型及び変異型Radを心臓特異的に発現したトランスジェニックマウスを作成した。今後、成長過程における表現形の変化や肥大刺激に対する反応の違いなどを検討するとともに、マイクロアレイによるスクリーニングを施行しRadと相互作用を有する新たな遺伝子および蛋白質を同定し、その細胞内情報伝達系を解明する。
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