心臓に対する圧負荷と容量負荷は共に心肥大を呈すが、前者は求心性肥大、後者は遠心性肥大を起こし、異なったリモデリングが出現する。我々はラットの圧負荷と容量負荷肥大心においてDNA chipを用いて遺伝子発現の相違を検討した。その結果多数の遺伝子変化が観察されたが、申請者はその内2つの蛋白に着目し機能解析を行っている。その一つであるfibulin-5は容量負荷心で発現が亢進し圧負荷で減少していたことから、その発現変化が特徴的な肥大リモデリングの鍵であると考えられた。Fibulin-5の心臓における機能と、圧負荷および容量負荷肥大心で異なる発現パターンを示す意義の解明するために、dominant negative変異とshRNA発現アデノウイルスの作成を行っており、shRNAに関しては細胞レベルで同蛋白の発現を抑制するものを見いだした。今後はこれらのこれらの阻害物質を用いてfibulin-5の機能を解明したい。もう一つの蛋白として、圧負荷、容量負荷肥大心でともに発現が亢進するfilamin-Cについて検討している。Filamin-Cは、紬胞骨格アクチンの架橋反応を担う酵素である。DNA chipで観察されたfilamin-Cの変化はreal-time RT-PCRでも確認され、圧負荷肥大心においては肥大形成早期と肥大完成期において二峰性に発現が亢進することが明らかとなった。さらにshRNAを用いて心筋細胞のfilamin-C発現を抑制すると、エンドセリンー1などの刺激に対し心筋細胞肥大は起こるが肥大に伴うアクチン再構築が起こらないことが判明した。これらの検討からfilamin-Cは心筋細胞肥大に伴うアクチン再構築に関与し、心筋細胞が負荷に耐えうる強靱な構造へと変化する上で重要であると推測された。今後さらに研究を展開し、圧負荷と容量負荷肥大心との質的相違を解明したい。
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