心疾患は世界各国で疫学上大きな問題となっており、その病態解明、治療法の前臨床試験には大型動物の疾患モデルが必須となる。そのため、本研究ではヒトと遺伝的に近い実験用サルの繁殖コロニーにおける自然発症性心疾患モデルの抽出・病態解析を試み、本年度は下記の結果を得た。 1.当該年度は当施設内に維持されているサル繁殖コロニーを対象に横断的心機能検査を行う事に重点を置き、100頭以上の個体を検査し、サルの心機能評価基準を樹立した。 2.それら基準に照らし、カニクイザルにおいて新たに心室中隔欠損症、右室二腔症、拡張型心筋症を確定診断した。特に拡張型心筋症個体では精査の結果、低血圧、機能障害、心臓ペプチドホルモンの上昇など心不全病態を疑う個体が存在した。心室中隔欠損では筋性部および膜性部に欠損部位を認める個体をそれぞれ抽出した。また、右室二腔症においては、腫瘤塊が血栓由来であることが明らかとなった。 3.アフリカミドリザルにおいては36頭中11頭に拡張型および肥大型心筋症や心室性期外収縮を呈する個体が存在することを明らかにした。一部の個体については病理組織学的検索を行い、心筋の間質線維化や錯綜配列などを認めた。 4.これらの結果を国内外の学会等で報告すると共に、各施設での実験用サル類の心疾患発生状況について情報収集を行った。その結果、国内や韓国で維持されている野外飼育ザルやアフリカミドリザルにおいても僅かながら心筋の繊維化や心臓の拡大など、心疾患を示唆する所見を得ていることが明らかとなった。しかし、体系立てた検査や確定診断の例は依然として少なく、心疾患モデルとしては本研究で得られる疾患群の充実が貴重な研究資源として医科学研究の発展に重要であるという示唆が得られた。 引き続き疾患の抽出を進めると同時に、これまで得られた心疾患に関してSNPs、疾患関連遺伝子、蛋白質の解析などを行う予定である。
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