心疾患に対する病態解明、新規治療・診断法の開発研究を行う上ではヒトにより近縁な霊長類モデルの樹立が求められている。そのため、本研究では実験用サル類繁殖コロニーを対象に、様々な心疾患の抽出・解析を行ってきた。これまでに、カニクイザルにおいては心室中隔欠損症、右室二腔症、弁膜症、拡張型心筋症、アフリカミドリザルにおいては心筋症、心室性期外収縮と言った多様な心疾患を抽出することに成功している。特に今年度は心不全病態を伴う拡張型心筋症に着目し、詳細な解析を行った。その結果、まず同様の症状を呈する個体が複数存在する事を確認した。また、心不全病態の新たな解析結果としてMRIを用いた画像診断においてびまん性の心室拡張、壁運動低下を認め、ガドリニウムを用いた遅延造影法による心筋バイアビリティの描写にも成功した。さらに、これらの個体の一部には同一家系内に同様の病態を呈する個体が認められ、家系性疾患であることが示唆された。そのため、これまで報告されているδ-sarcoglycan、phospholambanにおけるmutationの相同領域を検索した結果、本疾患においてヒトと全く一致するものは認められなかった。しかしながら、この様なヒトの病態を忠実に反映するサルの疾患モデルが得られたと言う結果を現在国際紙に投稿中であると同時に、国内外の学会等でも広く報告し、情報収集を行った結果、得られた疾患モデルは貴重な研究資源であり、これらの個体とその遺伝子や組織サンプルを維持管理する事は心臓病態学のみならず生物資源研究上の大きな成果であることも示唆された。引き続きこうした疾患モデルの抽出・解析を継続し、得られた疾患モデルのSNPs、疾患関連遺伝子・蛋白質などのより詳細な解析を進め、その病態機序を明らかにし、新規治療・診断開発研究に役立てると共に、疾患モデルとしての付加価値をより高めることを目指したい。
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