本年度は心筋特異的Gab1Gab2遺伝子欠損マウスの解析に焦点を当てた。心臓ではGabファミリーアダプター蛋白質は主にGab1とGab2が発現している。Gab1とGab2はお互いに機能相補し合うことが報告されていたため、Gab2遺伝子欠損マウスと心筋特異的Gab1遺伝子欠損マウスを交配し、心筋特異的にGab1/Gab2両遺伝子を欠損するGab1Gab2DKOマウスを作成した。Gab1Gab2DKOマウスは正常に出生するが、生後に両心室の著明な拡大と収縮能の低下が見られた。興味深いことに、Gab1Gab2DKOマウスは心内膜に限局した弾性線維と膠原線維の集積が観察され、ヒトの心内膜弾性線維症と類似した病理像を呈していた。左心室内には異常拡張した血管像が多数観察された。シグナル伝達の異常としてはGab1Gab2DKOマウスでは、Neuregulin-1β刺激による心筋細胞でのErbB受容体からERK及びAKTへの伝達に障害が存在することが明らかとなった。マイクロDNAアレイを用いて、野生型とGab1Gab2DKOマウスとの間でNeuregulin-1β投与後の遺伝子発現応答を比較すると、野生型で観察される内皮安定化因子Angiopoietin-1の発現誘導がDKOでは完全に消失していた。心臓組織内の内皮細胞から分泌されるNeuregulin-1βが心筋細胞においてErbB/Gab1/2を介してERKやAKTの活性化を通して心筋の恒常性維持に働くだけでなく、心筋でのAngiopoietin-1の発現誘導を介して心臓内の内皮系を安定化することでも心機能維持に関わることが明らかとなった。
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