肺線維症は現在、有効な治療法がなく、発症機序にも不明な点が多い難治性疾患として知られている。これまでに肺線維症のマウスモデルであるブレオマイシン誘導性肺障害において、肝細胞増殖因子(Hepatocyte Growth Factor ; HGF)の投与が症状の緩解に有用であることが報告されているが、全身投与により生体内で十分な効果を得るためには多量の組換えペプチドを必要とするなどの問題点がある。一方、骨髄中には造血性幹細胞(Hematopoietic stem cells ; HSCs)に加え、間葉系幹細胞(Mesenchymal stem cells ; MSCs)が存在し、筋細胞、脂肪細胞、軟骨細胞、血管内皮細胞、神経細胞など多くの組織への分化能を有することが現在報告されており、組織再生治療への応用が注目されている。MSCsは誘導、培養ならびに多分化能の維持が比較的容易であり、また炎症や腫瘍などにより障害を受けた組織へ効率的に遊走する報告がなされており、特に、先に述べたマウスのブレオマイシン誘導性肺障害において、MSCsは肺の障害領域へ効率的に集積し、肺胞上皮細胞様の形態を示し症状を緩解するという報告がある。 そこで本研究では、肺組織修復に関与するHGFの遺伝子を組み込んだ改変アデノウイルスベクター(AdHGF-RGD)をMSCsに感染させ、肺障害誘導マウスへ全身投与し、組織の修復効果を評価することで新たな肺障害治療法の開発を目的とする。また、MSCsの組織の障害部位への遊走の機序ならびに肺移行後に分化する細胞を同定し、肺の修復過程における骨髄由来幹細胞の果たす役割を明らかにする。 本研究はMSCsの肺障害の修復能に加え、agentを障害領域で効率的に発現させるvehicleとして用いる点で、再生と遺伝子治療を融合させた独創的な研究であると考えられ、これまでに有効な治療法がなかった肺線維症に対する新規治療法の開発と、これまでに不明な点が多かった肺障害の修復における骨髄由来幹細胞の役割について新たな示唆を与えるものを思われる。
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