背景ならびに目的) 肺線維症は現在、有効な治療法がなく、発症機序にも不明な点が多い難治性疾患として知られている。これまでに肺線維症マウスモデルとして汎用されているブレオマイシン肺障害において、肝細胞増殖因子(HGF)が症状を緩解したという報告があり、また、骨髄由来間葉系幹細胞(MSCs)が傷害を受けた肺組織へ遊走し、組織の修復に寄与するという報告もなされている。そこで研究代表者(兼平)は、ブレオマイシン肺障害を誘導したマウスへHGF強制発現MSCs(HGF-MSCs)を接種することで、より効率的な治療効果が得られるものと考え、実験を行ってきた。 研究業績の概要) MSCsはアデノウイルス感染に必須のレセプターであるCARの発現が低いため、MSCsへのHGF遺伝子導入は、ファイバー改変アデノウイルスペクターを新たに調整して行った。MSCsにはHGF遺伝子が効率よく導入されること、HGFタンパク質を発現すること、ならびに産生されたHGFタンパク質は生理活性を有することを確認した。 次にMSCs単独で最も効率よくブレオマイシン肺陣害の症状を緩解する条件を検討した。従来の論文がブレオマイシンを腹腔内注射しているのに対し、特殊な機器を用いて経気道的にブレオマイシンを均一に肺へ投与する実験系を確立した。またAshcroft scoreによりマウス各個体の症状を客観的に評価する方法を用いた。ブレオマイシン投与1日後に3日連続で5x10^5cells尾静脈より接種し、12日後に肺を回収、染色したところ、未処理群に比べ、顕著な症状の緩解効果ならびに気管支肺胞洗浄液(BALF)中の炎症細胞数の減少を認めた。HGF-MSCs接種による更なる症状の緩解を組織像、BALF中の炎症細胞数、炎症性サイトカイン濃度ならびに肺組織へのヒドロキシプロリン滲出量などの観点から現在確認している。
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