研究概要 |
1.臨床研究 進行非小細胞肺癌症例においてビノレルビン・シスプラチン二剤併用化学療法を行い、ニトログリセリン併用群(A群)とニトログリセリン非併用群(B群)の間で化学療法の治療効果、治療効果維持期間(TTP)、副作用発現と長期予後への影響について第II相臨床比較試験で検討した。その結果、奏功率はB群において42%(60例中25例)であったのに対して、A群において72%(60例中43例)と有意にA群の方が治療効果は高かった。また、TTP中央値は、B群では185日に対して、A群では327日とA群で有意なTTP延長効果が認められた。副作用の発現としては、軽度の頭痛以外は両群間に有意な統計差を認めなかった。以上のことから、ニトログリセリンはビノレルビン・シスプラチン化学療法を増強し、その副作用発現頻度は許容できる範囲であった。 2.動物実験 ニトログリセリンの抗癌剤増強効果の機序については、マウス肺腺癌継代細胞であるLLC細胞とマウス大腸がん継代細胞であるcolon26細胞を用いて担癌モデルを製作した。LLC細胞とcolon26細胞の双方において、腫瘍成長曲線はニトログリセリン併用シスプラチン化学療法の方がシスプラチン単独化学療法よりも有意に低値を示した。生存曲線もまたニトログリセリン併用シスプラチン化学療法の方がシスプラチン単独化学療法よりも良好であった。腫瘍組織の腫瘍内微小血管密度(IMD)を測定したところ、両群の間でIMDの統計学的有意差は認められなかった。したがって、一時的なニトログリセリン投与は血管新生を介さず、腫瘍内の血流を増加することによって腫瘍内酸素分圧を増加し、シスプラチンの増感作用をもたらすことが示唆された。現在、ニトログリセリン投与による腫瘍内のHIF-1a,P-gp,VEGF蛋白発現への影響と、腫瘍組織への抗癌剤の薬物分配への影響を検討している。
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