糖尿病患者数の増加に伴い新規透析導入患者は年々増加しており、腎不全治療薬の開発は急務である。しかしながら、従来の腎疾患治療薬は予防的であり、一旦形成された腎不全を回復させる薬剤は未だ見つかっていない。 近年、糖尿病性腎症を含む各種腎疾患モデルにおいてBMP-7(Bone Morphogenetic Protein)を投与すると腎機能が回復することが報告された。これは腎不全からの回復という点では画期的だが、BMP-7受容体が腎臓に限局しないため他臓器における副作用が強く、実用化には至っていない。 私たちはGeneChipを用いた腎臓特異的遺伝子検索の過程でUSAG-1(Uterine Sensitization-Associated Gene 1)が腎臓特異的に発現する新規BMP拮抗分子であり、その発現部位がBMP-7と一致することを見出した。 さらに『USAG-1が腎臓においてBMP-7の腎障害修復機能を抑制することで腎疾患進展促進因子として働いている』という仮説をたて、それを証明するために、USAG-1遺伝子欠損マウス(以後KO)を作成した。KOは各種尿細管モデルにおいて腎障害抵抗性であり、その死亡率、組織障害や腎機能低下は野生型マウスと比べ著明に軽減されていた。またKOではBMP下流シグナルが著明に増強していること、KOにBMP-7の中和抗体を投与すると腎障害抵抗性が抑制されることから、KOの腎障害抵抗性はBMP-7の腎修復機能の増強を介したものであることが示唆された。さらに腎臓に発現するBMP拮抗分子の中でUSAG-1が最も多く発現しており、BMP-7と同様の発現パターンを示すことから、生体内においてもUSAG-1はBMP-7の中心的な阻害因子として機能しており、USAG-1/BMP-7の相互作用を抑制する薬剤には腎不全治療薬としての可能性があると考えられた。USAG-1の発現が腎臓特異的であることから、USAG-1をターゲットにした治療薬のほうがBMP-7の投与よりも副作用が少ないことが期待される。
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